書評: 青草書房 『名文で巡る 国宝の十一面観音』

 国宝に指定されている十一面観音は、全国に7体あるということを、本書を読んで知った。そしてたとえば、その中の一つ、滋賀県湖北の向源寺の十一面観音立像を見て、こういう文章を書ける人たちは、今ではいなくなってしまったことを痛感した。

(中略)

本書はその国宝の十一面観音を写真ではなく、かつて書かれた「名文」と言われる文章で辿ろうとする試みだ。

(中略)

かつて読んだことのある文章である。ことに和辻哲郎や亀井勝一郎は懐かしく、懐かしいというよりもむしろ、彼らの文章は血肉となって、自分の身体の中に入り込んでいる。それらを夢中で読みながら、奈良や京都を歩いたあの頃の自分。堂宇に腰掛けて、さまざまに思いを馳せた青春期の自分が、彼らの文書の中に透けて見えた。しかし、それは決して私事のノスタルジーではない。それは、自分の血肉となっているがゆえに、何十年も忘れて生きた「何か」を確認する瞬間であり、我々が失ってきたものを、自分の目の前に叩きつけられる瞬間でもあったのだ。・・・(続く) 月刊現代6月号より抜粋。



青草書房
「名文で巡る 国宝の十一面観音」

定価 1680円



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